「君がいた冬、僕はまだ十七だった」
俺の名前は佐藤悠斗。
高校二年の十二月、俺は人生で一番馬鹿なことをしていた。
毎朝、わざと三十分早く登校して、図書室の端っこで息を殺して倉田すみれを見ていた。
理由なんて、くだらない。
十一月の文化祭で、クラス劇の裏方をやってたときに、すみれが演じた雪女があまりにも綺麗で、俺はその瞬間から完全に落ちた。
台本も覚えてない脇役だったのに、彼女が舞台に立った途端、客席が静まり返った。
雪の精霊が本当にそこにいるみたいだった。
それ以来、俺は彼女のことが頭から離れなくなった。
最初はただの片思いだった。
廊下ですれ違うとき、彼女が小さく会釈してくれるだけで一日幸せだった。
でも、ある朝、偶然図書室で彼女を見かけてから、俺の行動はエスカレートした。
十二月十日。
期末テスト前で頭が爆発しそうだった俺は、朝練をサボって図書室に逃げ込んだ。
そこに、すみれがいた。
窓際の席で、参考書を開いて、時々外の雪を眺めながら鉛筆をくるくる回してる。
俺は本棚の陰に隠れて、息を止めて見ていた。
三十七分間、完全に。
それが始まりだった。
次の日から、俺は毎朝図書室に通うようになった。
彼女が来る十分前には必ず着いて、奥の棚の隙間から見守る。
話しかける勇気なんてゼロだった。
ただ、彼女がいる空間にいるだけで、胸が熱くなった。
十二月十八日。
その日は雪が強かった。
俺が図書室に入ると、すみれがすでにいた。
いつもと違うのは、彼女が泣いてたこと。
机に突っ伏して、小さく肩を震わせてる。
俺は凍りついた。
どうしたらいいかわからなくて、ただ立ち尽くしてた。
すみれは五分くらい泣いてた。
そして顔を上げて、涙を拭って、また参考書を開いた。
その横顔が、痛いくらい綺麗だった。
俺はその日、初めて彼女に話しかけようと思った。
でも、結局できなかった。
臆病者すぎて、吐きそうだった。
十二月二十二日。
冬休み前最後の登校日。
俺はいつもよりさらに早く図書室に行った。
でも、すみれはいなかった。
代わりに、俺がいつも隠れてる棚の前に、一枚の便箋が置いてあった。
『ねえ、佐藤くん。
いつも見てくれてるよね。
最初は気配だけだったけど、最近は足音でわかるようになった。
棚の隙間から見てるのも、全部わかってた。
変態って思う? うん、ちょっと変態かもね。
でも、ありがとう。
君がいる朝が、最近すごく好きだった。
話しかけようと思ったけど、やっぱり恥ずかしくてできなかった。
ごめんね。
でも、今日で最後だから。
これだけは伝えたかった。
倉田すみれ』
便箋の端に、小さな雪の結晶の落書きと、一言。
『できれば、17時に駅の改札前に来てくれると嬉しい』
俺は便箋を握り潰しそうになった。
震える手で、制服のポケットにしまった。
その日の授業なんて、頭に入らなかった。
ホームルームが終わるなり、俺は教室を飛び出した。
駅まで走った。
雪が降り始めていた。
制服の上にコートも羽織らず、息が白くなるのも構わず走った。
改札を出たところで、彼女は待っていた。
赤いマフラーに白いコート。
頬を真っ赤にして、俺を見上げて。
「……来てくれたんだ」
俺は息を切らしながら、必死に言葉を探した。
でも、出てきたのはこれだけだった。
「ごめん……俺、変態で」
すみれは吹き出した。
そして、泣きながら笑った。
「うん、知ってる。超変態」
俺も泣きながら笑った。
十七歳の俺たちは、駅の改札前で、雪の中で泣き笑ってた。
「でもさ」
すみれが言った。
「変態でも、君がいる朝が好きだったのは本当だよ」
俺たちは手を繋いだ。
冷たい指先が絡まって、ゆっくりと温かくなった。
駅から俺の家までの道のりを、三十分かけて歩いた。
ほとんど言葉は交わさなかった。
ただ、時々すみれが小さく「寒い」と呟くから、俺はそっと手を強く握った。
家の近くの公園に着いたとき、すみれが立ち止まった。
「ねえ、佐藤くん」
「ん?」
「私、来年転校するの」
一瞬、世界が音を失った。
「……え?」
「お父さんの仕事で。春から大阪」
俺は何も言えなかった。
ただ、握ってた手が震えてた。
すみれは俺の顔を見て、優しく笑った。
「だから、今日が最後なんだ。ごめんね」
俺は首を振った。
必死に首を振った。
「俺……俺、すみれのこと、ずっと……」
言葉にならなかった。
代わりに、俺は彼女を抱きしめた。
雪が降り積もる中で、制服越しに伝わる体温が、すべてだった。
「私もだよ」
すみれが耳元で呟いた。
「君のこと、ずっと見てた。文化祭のときから」
俺たちはどれくらいそうしてたかわからない。
雪が制服に積もって、白くなっていく。
最後に、すみれが離れた。
そして、小さくキスをした。
頬に。
雪みたいに冷たくて、でも熱いキスだった。
「ありがとう、悠斗くん」
名前を呼ばれたのは、初めてだった。
それが、俺たちの別れだった。
春になって、すみれは本当に転校した。
俺は図書室に行かなくなった。
あの棚の隙間を見るたび、胸が痛くて仕方なかった。
でも、雪が降るたびに思い出す。
十七歳の冬、俺が初めて「好き」をちゃんと形にできた日を。
そして、雪の中で交わした、最後の約束を。
「また会おうね」
すみれが言った。
「絶対に、どこかで」
俺は今でも信じてる。
いつか、どこかで。
雪の降る日に、彼女にまた会えるって。

北海道ご出身だからかな?雪の描写が細かくていいね!!雪馴染み無い民だからイメージしやすくって良かったよ。起承転結も上手いから漫画にしてジャンプルーキーとか投稿したら一定のファンが付きそう…。
所々手直ししてあげたいなポイントが出てるから参考にしてね!
来年転校するの【ん?冬休み明けかな?じゃあ全然付き合えるしデートもHもできるじゃん!!18歳で高校卒業なんだから余裕で大阪も行けるじゃん?たった1年間だけ遠距離恋愛するだけだよー。】
首を必死に振る【わんちゃんかな?目の前でそんな懸命に首降られたらちょっと萎えるなぁ…】
等身大って難しいよね。
でも貴方はまだ中学生だと思うから国語をもっと頑張れば多くの人が一目置くストーリーを作れるはず。がんばれ!